第2章
鱗と目が合った朝

カラスじゃない、と気づくのに一秒もかからなかった。
それは緑と金が混ざったような色の鱗に覆われていて、ちっちゃな翼をぱたぱたさせながら、アスファルトの上でもぞもぞ動いてた。大きさはだいたい俺の手のひらふたつ分くらい。ちっちゃい。でも、間違いなく——ドラゴンだった。
「……は?」
俺の口から出たのはそれだけだった。語彙力、完全に消えた。
鱗が朝の光を受けてきらきら光ってる。生き物としてのオーラがすごい。映画のCGとかじゃなくて、本物の質感で、息をしてて、体温がありそうで、それが想像以上にリアルで、なんか逆に怖かった。
そいつがゆっくり頭をあげて、俺のことをじっと見た。
目が合った。
その瞬間、背筋をなにかが走った。電気みたいな、でもそれとも違う、うまく言えない感覚。こいつ、ただの動物じゃない気がする。目に知性みたいなものがあって、「お前に用がある」って言いたそうな顔してる。……してるよな?気のせいじゃないよな?
時計を確認して、俺は内心悲鳴をあげた。あと八分で予鈴が鳴る。
「やばい、やばいやばい」
放っておくか?無理だ。こんなもの道端に残していったら、次に通る人がどうなるか。てか、こいつ自身が危ない。車道の近くだし、カラスにつつかれたりしたら……考えたくない。
気づいたら俺は膝をついて、ドラゴンに手を差し出してた。完全に無意識。
そいつはちょっとだけ首をかしげてから、すたすたと俺の手のひらに乗ってきた。
「……お前、人慣れしてんな」
呟いたら、ドラゴンがぴっと尻尾を揺らした。返事のつもりか?
俺はため息をついて、リュックのサイドポケットをあけた。ペットボトルを取り出して、代わりにそっとドラゴンをいれる。顔だけ出させて、チャックを少し開けておく。
バカだと思う。自分でもわかってる。
でも、なんか、放っておけなかった。
走り出した俺の心臓はずっとバクバクしてて、いつもの退屈な通学路が、今日だけ全然別の道みたいに感じた。