第3章
鬼の正体

「竜輔! おい、竜輔!」
桃太郎が肩を掴もうと手を伸ばした瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。
竜輔の体から、見えない何かが溢れ出している。熱くもなく、冷たくもない。でも確実にそこにある、嫌な「気配」。思わず手を引っ込めた桃太郎は、そこで気づいた。
周りの生徒たちも、全員こっちを見ている。
そしてその目が、竜輔と同じ深紅に染まっていた。
「は……なにこれ」
声が震える。十数人の生徒がゆっくりと輪を狭めてくる。誰も言葉を発しない。足音だけがコンクリートに響く。
そのとき、頭の中に何かが弾けた。
団地の壁に飾られた、あの墨書。
――鬼退治の家筋を継ぐべし。
ずっと「迷信だ」と笑い飛ばしてきた言葉が、今は違う意味を持って響いてくる。これが、鬼だ。竜輔を動かしているのも、クラスメイトを染めているのも、全部そいつらの仕業だ。根拠なんてない。でも桃太郎の血が、そう叫んでいた。
「逃げろ」と本能が言った瞬間、竜輔が動いた。
速い。ありえないくらい速い。ただの高校生の動きじゃない。桃太郎は反射的に身を低くして、振り下ろされた腕をギリギリかわした。風切り音が耳をかすめる。
「っ、竜輔! 正気に戻れ!」
「戻る?」竜輔の口が動く。あの重なった声で。「戻る必要がどこにある」
走った。とにかく走った。階段を駆け下りて、校門を飛び出して、住宅街に飛び込む。後ろから複数の足音が迫ってくる気配がしたが、角を曲がったところで突然止まった。
息を切らして振り返ると、そこには誰もいない。
「……助かった、のか?」
「助かってないよ」
細い声が足元から聞こえた。
見下ろすと、白黒の猫が桃太郎を見上げている。黄金色の瞳で、まっすぐに。
「あんた、桃太郎の子孫でしょ。ちょうどよかった。話がある」