第6章
第6章 灰色の猫の教え

灰色の猫は段ボール箱から半身を出した。思ったより大きい。わたしより頭ひとつ分背が高くて、毛並みはぼろぼろで、左耳の先が折れてた。でも目つきだけは鋭くて、何だか知ってることがいっぱいありそうな感じがした。
「濁流か。また来たのか」
猫はつぶやいた。まるで他人事のような口ぶりだ。
「また…来たのって。毎年なの?」
わたしは思わず聞いた。灰色の猫は黄色い目でじっとわたしを見つめた。
「お前、親猫と一緒に暮らしてたのか。だからこんなことになってんだ」
その言い方に、何か含まれてるような気がした。わたしは小さく頷いた。
「そう。路地裏で。でも濁流に流されちゃって…」
「親猫も流されたってわけだな」
灰色の猫は鼻をひくひくさせた。
「流される猫は多い。毎年この季節になると、大雨が来る。その度に何匹もの猫がさらわれていく。生き残る奴もいるし、二度と戻らない奴もいる」
「え…」
わたしの足元がふらついた。お母さんが…戻らないなんて。そんなのいやだ。
「だがな」
灰色の猫が立ち上がった。
「泣いてても何もならん。お前、いつ食べた?」
「あ…朝。段ボール箱の中で…」
「それからか。そりゃあ動けねえわけだ。野良の世界では空きっ腹では動けん。まず食え」
灰色の猫はするすると段ボール箱をくぐり抜けた。わたしは思わず後を追った。肉球の冷たさはまだ消えてないけど、お腹が満たされれば、少しは考える余裕が出るかもしれない。
「ここなら大丈夫だ」
猫は足を止めた。指でどこかの角を指した。そこには、くしゃくしゃになったビニール袋がいくつか落ちてた。
「あ…あんな…」
「におい嗅げば、何が入ってるかわかる。食べられるやつとそうじゃないやつがある。この辺りなら、人間が食べ残したやつが落ちてることが多い。運がいいと、結構いい匂いだ」
わたしはおっかなびっくり、その袋に近づいた。確かに、何か食べ物の匂いがする。親猫が持ってくるおいしい食べ物とは違う匂いだけど…
「迷ってるな」
灰色の猫が呟いた。
「野良の世界じゃ、選り好みなんかしてらんねえんだ。生き残ることが全てだ。お前がここで生き残りたいなら、それくらい覚悟しとけ」
わたしは深く息を吸った。好奇心は湧いてきた。けど、これも冒険だと思うことにした。