第4章
第4章 一人前への第一歩

身体はまだ震えてた。濡れた毛並みが乾く様子もなくて、風が吹くたびに寒気が走った。でもじっとしてたら、もっと冷たくなるような気がした。だからわたしは、そろそろと立ち上がることにした。
肉球が冷たいコンクリートに触れると、ぴりっと刺激が走った。足元がおぼつかない。いつもの路地裏なら、毛並みの手触りで安心できたのに。ここは何もかもが違ってた。
「お母さんは、どっち…?」
わたしは周りを見回した。灰色の壁、変な臭いがする場所、流れ落ちてくるさっきの水。どれを見ても、親猫のオレンジ色は見えなかった。立ち尽くしてたって仕方ない。わたしは意を決して、歩き始めることにした。
最初は慎重に、コンクリートの端をそって進んだ。壁に沿って歩けば、少なくとも迷子になるってことはないだろう。肉球は冷たいままだけど、動いてると身体も少しだけ温かくなった。
角を曲がると、段ボール箱が積み重ねられてるのが見えた。あ、これだ。家みたいな感じがする。わたしは慎重に近づいて、中を覗き込んでみた。中身は空っぽだったけど、屋根があるってだけで、ちょっぴり安心できた。
歩いてると、匂いに気づいた。食べ物の匂い。ゴミ箱だ。親猫の側にいた時は、親猫が持ってきてくれたネズミとか、時々の食べ物で十分だった。でもここは違う。誰も持ってきてくれない。わたしは初めて、自分で食べ物を探す必要があることに気づいた。
ゴミ箱に近づくのは、ちょっと怖かった。でも空腹の方が怖かった。わたしは思い切って飛び込んだ。中身は…変な匂い。古い食べ物と、腐った何かの混ざった臭い。でも、食べられそうなものがあった。古いパンの端っこ。誰かが食べ残した魚。
「いただきます…」
親猫みたいな上品な食べ方はできなかった。必死にかぶりついた。あんまり美味しくなかったけど、お腹の中に何か入ってくるだけで、不安がちょっと減った。
そしてその時だった。
「おい、そこの三毛」
わたしは飛び上がった。ゴミ箱から転げ出たわたしの前に、大きな野良猫が立ってた。灰色の毛並みで、片耳が半分ないやつだ。目つきは鋭くて、すごく怖かった。
「この地区は俺のテリトリーだぜ」
野良猫はそう言った。わたしは思わず身を縮めた。でも逃げるわけにはいかない。親猫を探すには、この場所のことを知らなくちゃいけない。
勇気を出して、わたしは鳴いた。「あ、あの…」