第3章
第3章 一人ぼっちの朝

冷たい。すごく冷たい。
目を開けたとき、最初に感じたのはそれだった。全身がびっしょり濡れてて、毛並みはぐちゃぐちゃ。段ボール箱の中でぬくぬくしてた、あの気持ちいい感触は、もうどこにもなかった。
わたしは慌てて身体を起こした。周りを見回してみて、すぐに気づいた。
ここは路地裏じゃない。
見知らぬ場所だ。灰色のコンクリートと、変な匂い。濡れたゴミの臭いと、泥と、何かわからない薬品みたいな臭いがごちゃごちゃに混ざってる。頭の上には見たことない高い壁。足元には、さっきまで流されてたはずの水が、まだちょろちょろと音を立てて流れてた。
「お母さん…?」
わたしは小さく鳴いてみた。でも返事はない。風が吹くだけで、わたしの声は吹き飛ばされちゃった。
思い出した。あの怪物みたいな濁流に飲み込まれたこと。冷たい水に全身を包まれて、どこへ流されてるのかもわかんなくなったこと。何度も何度も、回転して、ぶつかって…。
段ボール箱に引っかかったんだ。それで助かったんだ。意識がもうろうとしてたけど、その箱に必死にしがみついて…。
「お母さん…」
もう一度鳴いてみたけど、やっぱり返事はない。お母さんはどこなんだろう。あの濁流に飲み込まれちゃったのかな。もしかして…。
いや。そんなことは考えちゃダメだ。お母さんはきっと、どこかで無事に…。
わたしは震えながら立ち上がった。足がふらふらしてる。肉球はくしゃくしゃで、毛並みはぼさぼさ。自分がどんなに情けない格好になってるか、想像できるくらいだった。
でも、ここにいちゃダメだ。お母さんを探さなきゃ。あの路地裏に帰らなきゃ。
わたしは周りを見回した。どっちへ進んだらいいんだろう。どっちが路地裏なのか。正直、何もかもが初めてで、どこもかしこも怖い。でも…。
「頑張ろう」
自分に言い聞かせて、わたしは一歩踏み出した。初めての、一人での冒険。こんなことになるなんて、朝ごはんをぱくぱく食べてた時には、想像もしてなかった。