第2章
第2章 一人ぼっちの夜

「メル、こっちっ!」
お母さんの声がした。わたしは慌てて駆け出した。でも雨がすごすぎる。目を開けてられないくらいの勢いで、上からも横からも水が襲ってくる。足元はもう水たまりじゃなくて、小さな川みたいになってた。
お母さんは路地裏の奥へ走ってた。わたしも懸命に後を追う。肉球が濡れてすべっちゃう。でもお母さんのオレンジ色の背中を見失ったら、大変なことになりそうな気がして、必死に走った。
「お母さん、待ってっ」
わたしが鳴いた時だった。
ごおおおって、いやな音がした。路地裏の角から、濁った水が滝みたいに流れ込んできたんだ。あんなの見たことない。まるで怪物が襲ってくるみたいで、本当に怖かった。
「きゃあっ!」
わたしは思わず飛び上がった。そのせいで足が地面から離れて……次の瞬間、冷たい水が全身を包み込んだ。
「お母さんっ!」
必死に鳴いたけど、自分の声すら聞こえない。水の音がすべてを飲み込んでいた。必死に足をばたつかせて、どうにか浅いところに流れ着いた。ごぼごぼって咳き込みながら、濡れた毛をふるふる。
周りを見回すと、お母さんの姿がない。
「お母さん?」
小さく鳴いてみた。でも返事がない。もう一度、大きく鳴いてみた。
「お母さんっ!」
声は雨の音に消えた。
わたしは呆然と立ち尽くした。周りは灰色の雨のカーテンで包まれてて、路地裏だけど何もかも見えない。お母さんは?どこ?どこにいるの?
好奇心旺盛で、ちょっぴりやんちゃなわたしも、さすがにこの時は怖かった。喉がカラカラで、身体が震えた。濡れてしまった毛が肌にぴったり貼りついて、冷たい。
雨はまだ降り続いてた。むしろ、さっきより強くなってる気がする。
わたしは歩き出した。お母さんを探すしかない。あるいは、雨をしのげる場所を見つけるか。親猫に頼ってばっかりだったわたしが、初めて自分で決断をした。
懐かしい路地裏だけど、雨の中だとまるで違う世界に見える。段ボール箱は雨に流されて、あたりに散らばってた。いつもの隠れ場所も、水浸しになってて使えない。
前に進むしかないんだ。
「お母さんを探そう」
わたしは自分に言い聞かせた。その時、わたしは気づいてなかった。この一夜が、退屈だった毎日を全部変えちゃうってことに。