第3章
駅前広場の大波乱

駅前広場に到着したとき、奇妙な喚声が耳に入った。
「お前ら、ここに立ってろ!これ、ドッキリだ!」
青年が、スマートフォンを片手に、通行人たちを囲いこんでいた。その背後には、複数の人間がカメラを持ち構えている。迷惑系YouTuberだ。ハルタロウは町で何度も動画を見かけていたから、すぐに理解した。
「怖い、怖い!」青年は意図的に大声を出しながら、近づいてくる老人を遮った。「ちょっと待てよ、おばあさん。お前、ここを通りたいなら、俺の命令に従え。『炎上ジョーは神だ』って言ってみろよ」
老人は困惑した表情で、後ずさりしようとした。しかし、青年の背後にいた男たちが道をふさぐ。やり場のない不安が老人の顔に浮かぶ。
これが、ミリアから聞いた『炎上ジョー』か。
ハルタロウは駅前広場を横切ろうとした。わざわざ関わる必要もない。依頼書を持って、正式にミッションを受けてから動くべきだ。そう考えながら足を運んだ。
しかし、その時だった。
「おい、そこの茶色いローブ!」
炎上ジョーがハルタロウに気づき、カメラをこちらに向けた。「お前、強そうじゃねえか。な、やってみろよ。俺とバトルしてくれたら、お前を有名にしてやるぞ」
ハルタロウは立ち止まった。それは退屈を感じていたからではなく、純粋に興味深い挑戦だったからだ。
「俺を倒してみろ。できたら、この動画で一千万再生いくぞ」炎上ジョーは両手を広げ、大口を叩いた。「ほら、カメラ、カメラ。全部撮ってるぞ。お前が俺に倒される瞬間、世界中に配信されるんだ。嫌だろ?」
笑い声が上がった。背後の男たちも、周囲の観客も、青年の調子に呑まれていた。
ハルタロウは無言で歩を進めた。
「何だ、逃げるのか?」炎上ジョーは嘲笑った。「つまらねえ。やっぱり弱そうな奴だ」
ハルタロウは青年の目の前で止まった。距離は三メートルほど。
「やるのか。よし、来い」炎上ジョーは構えた。しかし、その構えは、喧嘩の経験すらない素人のそれだった。
ハルタロウは右腕を、ゆっくりと持ち上げた。
「え、何だ、お前—」
言い終わらなかった。
拳が炎上ジョーに命中した。世界が、一瞬だけ静止した。次の瞬間、青年の体は駅前広場の向こう側へと吹き飛んだ。カメラをつけた男たちも、巻き込まれるようにして転がった。
駅前広場は、静寂に包まれた。
数秒後、通行人たちの歓声が上がった。