第2章
冒険者ハルタロウ、仕事開始

朝日が差し込む宿屋の窓から目を覚ましたハルタロウは、いつものように筋肉に力を込めた。二メートルを超える体躯は、鎧を着ていなくてもそれ自体が武器だった。だが、本人は至って普通の思考で、まずは朝食のパンをかじる。
退屈だ。
最近の冒険者生活は、つまるところ退屈に尽きた。魔物を倒すといっても大したことはない。ドラゴンも一発で眠らせてしまう。かつて憧れた冒険者の日常は、予想以上に味気ないものだった。ハルタロウは町へ買い物に出かけることにした。
駅前広場に到着したとき、奇妙な喚声が耳に入った。
「お前ら、ここに立ってろ!これ、ドッキリだ!」
青年が、スマートフォンを片手に、通行人たちを囲いこんでいた。その背後には、複数の人間がカメラを持ち構えている。迷惑系YouTuberだ。ハルタロウは町で何度も動画を見かけていたから、すぐに理解した。
「怖い、怖い!」青年は意図的に大声を出しながら、近くの店の壁に向かって走った。「爆発する!爆発するぞ!」
通行人たちが悲鳴を上げる。子どもが泣く。老人が転びそうになった。ハルタロウは眉をひそめた。
「待て。ここで爆発を演技したら、本当に危ないだろ」
ハルタロウが静かに近づくと、YouTuberは振り返った。
「何だ、お前。邪魔すんなよ。これは企画なんだ。動画のためなんだよ」
「動画?」
「そうだよ。お前みたいな田舎臭い奴には関係ない。今、俺は五十万人のフォロワーがいるんだ。お前なんて……」
ハルタロウは心の中で大きく息をついた。常識人である彼は、相手を説得しようとした。「一般人に危害を加えてはいけない。警察も来ているようだし、ここは諦めた方が……」
「うるせえ!」
YouTuberがハルタロウを押した。その瞬間、ハルタロウの中で何かが切れた。
軽いジャブのつもりだった。本当に、軽く。
拳が、ほんの少しだけ青年に接触した。
次の瞬間、YouTuberの体は駅前広場から消え去った。数秒後、四ブロック先のビル壁に激突する轟音が聞こえた。警察官たちが一斉に空を見上げた。
ハルタロウは、自分の拳を眺めた。
「あ、また加減を間違えた」
周囲は静寂に包まれていた。次の瞬間、通行人たちから歓声が上がった。
「英雄だ!」
「迷惑野郎をやっつけた!」
「ありがとうございます!」
警察官の一人が近づいてきた。「あなた、名前は?」
ハルタロウは照れ笑いした。「ハルタロウです。ただの冒険者ですが」
その日から、彼の評判は急速に広がった。