冒険者ハルタロウの日常/1

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冒険者ハルタロウ、立ち上がる

第1章 挿絵

王都アルバスの冒険者ギルドは、朝日が差し込む時間帯が一番静かだった。

ハルタロウは受付カウンターの前に立ち、掲示板に貼られた依頼書を眺めていた。退治系、護衛系、運搬系。ありふれた冒険者業務が並んでいる。茶色いローブに身を包んだ彼の顔立ちは、特に目立つわけではない。王都にありふれた青年の一人に見えるだろう。ただし、その両腕には秘めたる力があった。

「ハルタロウさん、ちょうどいい」

受付嬢のミリアが身を乗り出した。眉をひそめた表情だ。

「また?」とハルタロウは聞いた。

「また、です。今朝だけで、南通り地区からの苦情が十件。『迷惑系YouTuber・炎上ジョー』の暴挙についてです」

ハルタロウは受け取った情報用紙に目を通した。昨日から町中で路上ライブを強要する。通行人に絡みつき、スマートフォンで動画撮影。再生数稼ぎのためなら何でもするという輩らしい。

「どんな奴だ」

「見た目は若い。派手な服装で、常にカメラを向けているとか。住民は迷惑極まりなく、まともな通行が困難な状況だそうです」

ハルタロウは頷いた。「わかった。行ってくる」

「え、もう?」

「これぐらいなら簡単だ」

ハルタロウは何の気負いもなく、ローブをはためかせてギルドを出た。

南通り地区は王都の商業地だ。朝の時間帯でも人通りが多い。しかし、その人々の顔は暗い。通りの中央では、金色のネルシャツを着た若い男が、路上ライブを強行していた。

それが炎上ジョーだった。

「来たよ、来たよ!ウケるー!」

ジョーはスマートフォンを掲げたまま、通行人に話しかけていた。カメラには映っている。彼の一挙手一投足は、どこかの動画サイトにアップロードされるのだろう。

「皆さん、今からこの人に無理やり歌わせてみたw」

そう言って、ジョーはハルタロウを指差した。ハルタロウは歩みを止めた。

「お前か」

「あ?誰だ、このジジイ」

ハルタロウは三十には見えない年齢だが、その落ち着いた雰囲気は、若くして年上に見える。ジョーは嘲笑った。

「いい、いい。こんなの逆張りで使える。皆さん、このジジイを『無理やり踊らせてみた』コンテンツにいっちょどうすか」

ジョーは再びスマートフォンを向けた。周囲には観客が集まり始めていた。撮影されることで、自分たちも動画に映るという誘惑か。

ハルタロウは深く息を吸った。

表情は変わらない。淡々とした所作で、足を踏み出す。

「待て、何する気だ—」

ジョーが言い終わる前に、ハルタロウの右腕が閃いた。

拳は、空気すら切り裂いていた。

ジョーの身体は、吹き飛んだ。

二十メートルはあろうか。彼は商店街の外れまで飛ばされ、街路樹に背中から衝突した。スマートフォンは空中で数回転し、落ちた。

「が、ああああああ……」

ジョーの呻きだけが聞こえた。

周囲の通行人から、歓声が上がった。

ハルタロウは何事もなく、王都冒険者ギルドへ向かった。