ドラゴン物語/5

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秘密のドラゴン、謎解き始まる

第5章 挿絵

# 第5章「親友と解く、ドラゴンの謎」

「は? ドラゴン? お前、寝不足?」

放課後の教室、窓際の席で俺の話を聞いた颯太の第一声がそれだった。

まあそうなるよな。自分でも昨日まではそう思ってたし。

「本物。見る?」

リュックのチャックをちょっとだけ開けると、緑と金の鱗がきらっとのぞいた。西日がちょうど差し込む角度になっていて、その光を受けた鱗がエメラルドとゴールドの中間みたいな色に輝く。颯太の顔が、みるみる固まっていった。口が半開きになって、目がだんだん大きくなって、眼鏡の奥の瞳がフリーズしてる。あいつがこんな顔するのって、テストで百点取った時以来だ。

「……なんじゃこりゃ」

声が完全に裏返ってた。

俺は内心ちょっとホッとした。信じてもらえた。たったそれだけなのに、昨日からずっと肩の上に乗っかってた重たい石が、すうっと半分くらい消えた気がする。このもやもやした「俺だけが知ってる」感覚、こんなに息苦しかったんだな、と改めて気づいた。

ほかのクラスメイトたちはもうほとんど帰っていて、教室には俺たちふたりと、窓の外を流れる夕方の風だけが残っていた。遠くのグラウンドから運動部の声が聞こえてくる。バッシュが体育館の床を鳴らす音。それ以外はひっそりと静かで、秘密の話をするのにちょうどいい空気だった。

俺たちは席をくっつけて、スマホを並べてひたすら検索した。

「手のひらサイズ 緑 金 鱗 生き物」

「小型ドラゴン 実在」

「ミニチュアドラゴン 日本 目撃」

出てくるのはゲームの攻略サイトとか、都市伝説のまとめとか、「龍神様が現れたッ!!」みたいなオカルトブログとか、そういうのばっかりだった。颯太が図書室から引っ張ってきた分厚い生物図鑑にも、当然そんなもの一ページも載ってない。爬虫類のページを端から端まで見たけど、近いのはトカゲとカメレオンくらいで、全然ちがう。

「こいつ、公式に存在してないじゃん」

颯太がぼそっと言った。

「知ってた」

俺も同じトーンで返す。

笑えるような、笑えないような、妙な空気が教室に漂った。机の上に広げた図鑑と、画面いっぱいに検索結果を映すスマホと、そのどこにも居場所がない生き物が、俺のリュックの中でもぞもぞと動いている。この状況、客観的に見たら完全におかしいんだけど、なぜか怖くはなかった。むしろちょっと——面白い、と思ってる自分がいた。

そのとき、リュックの中のドラゴンがぐいっと体を動かした。

チャックの隙間から顔をのぞかせて、くいっと首をある方向に向ける。南だ。窓の外の、南の方角。

「ちょっと待って」

颯太が身を乗り出した。「毎日こっち向いてんの?」

「ああ。昨日も、一昨日も。夜中に鳴いてる時も、なんかずっとそっちの方向向いてた」

俺は腕を組んで、もう一度ドラゴンを見た。こいつは俺たちをちらっと横目で確認してから、またすっと南を向く。その動作が、まるで「わかってる、そっちだ」って言いたそうで、なんか妙に真剣な顔してる。ドラゴンに顔の表情があるのかはよくわかんないけど、でも絶対なんか考えてる目だ、これ。

颯太がしばらく黙って、リュックの中のドラゴンと、窓の外の空を交互に眺めた。

夕暮れの空は今日オレンジと紫が混ざったみたいな色をしていて、南の方角にうっすら雲が広がっている。ドラゴンの視線の先には、何がある? 街? 山? それとも——俺たちには見えない何か?

「……迷子なんじゃね?」

颯太がぽつりと言った。

その一言が、すとんと胸に落ちた。そうだ、それだ。うまく言語化できなかったものが、一瞬でかたちになった感じ。帰れなくて、方向だけは体が覚えてて、でも一人じゃどうにもできなくて、それでずっと南を向いてる。夜中に鳴いてたのも、きっとそういうことだ。不安で、怖くて、でも叫ぶことしかできない。

そう思ったら、このちっちゃい生き物が急にいっそう愛しくなった。

と同時に、胸のどこかがぎゅってした。痛いとかじゃなくて、責任感みたいなもの——いや、もっと単純に、「こいつを一人にしたくない」っていう気持ちが固まった感じ。

「だとしたら、俺が連れていかなきゃダメだよな」

気づいたら口に出てた。

言ってから、あ、覚悟が決まったな、って気づいた。不思議と迷いはなかった。二日前の朝、公園のアスファルトにぐったり落ちてたこいつを拾った時から、たぶんもう決まってたのかもしれない。

颯太がちょっとだけ目を見張って、それからニヤッとした。

「まじか」

「まじ」

「……どこ連れていくの」

「南」

「雑すぎる」

「まだわかんないけど、こいつが教えてくれるんじゃね」

颯太がぷっと吹き出して、それから「付き合うよ」と言った。眼鏡を人差し指でくいっと上げながら、口角を上げてる。こいつがこの顔をする時は、本気の時だ。中学から付き合い長いから、それくらいはわかる。

「面白そうだし」

「ありがとな」

「礼はいらん。ドラゴン飼ってる奴の友達、ちょっと自慢できるし」

俺は笑った。久しぶりに、お腹の底から笑った気がした。

その瞬間、リュックの中のドラゴンがぴっと尻尾を一回、気持ちよさそうに振った。

「……返事してんじゃん、こいつ」

颯太が呆れたような、感心したような顔をする。

「するんだよ、なんか」

「やばいな」

「やばいよ」

でも俺たちは声を揃えて笑ってた。西日が教室の床に長い影を作って、ドラゴンはまだ南を向いていて、俺の中に「行こう」という気持ちだけが、じんわりと灯っていた。